たったひとりを大切に! 接客の礎
髙橋明美(以下髙橋):本日のゲストは千房株式会社代表取締役社長、中井貫二様でございます。そしてNCU合同会社CEOで経営者育成研究会代表の芳永尚、私は進行の髙橋です。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは中井社長につきまして少し簡単にご紹介させていただきます。
1976年4月20日生まれ。大阪府堺市出身でいらっしゃいます。慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券株式会社に入社されました。超富裕層向けのプライベートバンキング業務に14年間従事されたのち、2017年、お父様の経営する千房株式会社に入社され、現在、代表取締役社長としてご活躍されていらっしゃいます。
それでは本日のテーマ「たったひとりを大切に! 接客の礎」ということでこれより芳永代表との対談となります。
芳永尚(以下芳永):本日はどうもありがとうございます。中井社長が現在の会社で社長になられるまでをお聞かせいただいてもいいでしょうか?
中井貫二(以下中井):ありがとうございます。はい。千房株式会社は私の父が1973年に創業しまして、今年でちょうど50年なのですけれども、創業から三年後に私が生まれました。三人兄弟の末っ子で上に兄が二人いまして、子どもの頃から長男が後を継いで、ほかの兄弟は会社には入れないと父も言っておりましたので、私もそれなら独り立ちするしかないということで、一番厳しい業界に入ろうと思いまして。で、その業界の中でも一番厳しい会社はどこだろうと思ったら、証券業界でなおかつ野村證券ということでしたのでそこを選んで入社しました。で、そのまま野村證券で定年まで働こうと思っていました。一方、長兄は(千房の)後継者候補ということで地元の銀行に3年間勤務し、その後、千房に入社したのですが、今から九年前、突然他界しまして……。完全に寝耳に水だったのですが「帰ってきてくれないか」という父からの言葉で(千房に)入社したという経緯でございます。
芳永:そうしましたら、もう完全に野村證券さんでバリバリやられていたさなかに……。
中井:はい。3年目ぐらいまではまったく数字は作れなかったのですが、そこから急に良くなりまして。で、まあ、従業員組合代表もさせていただいたり、このままこんな感じで人生過ごして行くんだろうなみたいに、なんとなくそんな絵を書いていたんですけども。
芳永:野村證券ではかなり(お仕事は)ハードだったのではありませんか?
中井:そうですね。みなさんが思ってらっしゃるハードさの多分十倍ぐらいはハードでしたね。
私がお世話になった上司の方も早く亡くなられたりですね。心と体を削って頑張っていらっしゃいました。ただ、私はもう本当に性に合っていたというか野村證券が大好きで、今でも野村證券の方とはお付き合いもありますし、何よりお客様に恵まれました。お客様に鍛えられたところがたくさんありました。本当に僕は大好きな会社でした。
芳永:ちなみに、超富裕層相手の営業ってどんなことをするのでしょう?
中井:上場企業の役員の方だったりあるいは法人そのものだったり、もう「お金持ち」っていう人を中心に、それこそ金融資産が何百億何千億ぐらいの方もいらっしゃいますし、もう一日で何十億動かしてみたいなそんな世界ですね。こっちのお金の感覚が鈍ってしまうような状況ですけど。今はもう本当に1円も大切。100円値上げしたらどうしよう、みたいなそんな世界です。もうまったく真逆でした。
芳永:そういう方との営業という部分でいうと、お考えの軸に合ったものとかあったりしますか?
中井:僕はすべての営業というのがそうだと思いますし、飲食業もそうかもしれませんが、『全人格格闘技』だって言っていまして。
芳永:全人格格闘技?
中井:はい。すべての人格をさらけ出してお客様にぶつかっていく。格闘技って言ったら殴り合いじゃないですけども、それこそ本当に、お客様に対してすべてをさらけ出せないと見透かされてしまうということですね。それだけやっぱり人間力、人間としての力を磨いていかないといけませんし、これは飲食業もそうだと思いますが、やっぱり従業員の人間味みたいなものっていうのを出していかないと、おそらくお客様に認めていただけないのではないかなというふうに思います。
芳永:……(深々と一礼して)それ、教えてください。
中井:いえいえ、とんでもない(笑)。
でも、本当にお会いして30秒ぐらいでお客様から「もうおまえ必要ないから帰れ」っていうふうに言われちゃいますし、その30秒1分ぐらいの間でどれだけ自分をアピールできるかみたいな、多分そんな世界だと思うんですよね。「もうこいつ使えねえ」と思われたらそこで切れてしまいますし、一生アポイントなんか取れない状況になっちゃいますので。そこで自分をどれだけ出せるか。あと、聴く力。お客様の話を聴く力とかよく言われますけども、まあ本当にそれを鍛えられますね。
でも、一時間、商談の時間があったら多分55分ぐらいお客様に話していただければ、絶対その商談をまとめられる、決められるっていうふうに思いますけど、それだけ話していただけるってこと自体がなかなか難しいんですね。
芳永:この話をお聞きするだけで、ものすごく勉強になりますね。
中井:とんでもないです。やっぱり全人格格闘技っていうぐらい今の私の人間力がどこまで鍛えられたのかは分からないですけども、今の私の経営としての礎ってのは全部、野村證券の14年間で教えていただいたという感じでしょうか。
芳永:礎というお言葉が出ましたが、「たった一人の人を大切にする」っていうお考えを浸透させている今の千房さんの事業についてもお伺いできますか?
中井:千房は父が創業しましたが、やっぱりその人間味というか、すごく泥臭い会社だなと。人を何よりも大切にする会社だと思うんですね。で、「千に房」って書いて千房なんですけども、ひとりひとりを大切にしながら、千の房になってみんなで守っていくというような。発祥は大阪城を作った豊臣秀吉の「千成瓢箪(せんなりびょうたん)」という馬印から付けられた社名なんですね。それだけ本当に従業員ひとりひとりを昔からずっと大切にした、人にこだわった会社だなと思いました。
私、子どもの頃からずうっと社員旅行だったり、入社式だとか、ソフトボール大会とか、忘年会もそうですけど、ありとあらゆる行事に強制的に参加させられておりまして(笑)。一歳二歳ぐらいのころからずっとそういったものに参加してきて、千房の従業員の方たちとはもうずっと昔から接点があったんです。この人たちはなんておもしろくて、なんてすがすがしくて一緒にいて居心地のいい人たちなんだろうって、ずうっと子どもの頃から思っていたんですね。で、九年前に入社した時もそのカルチャーっていうのは感じられたといいますか、それは父が築き上げてきて、ずっと企業文化としてしっかり根付いているんだなというふうに思いました。
芳永:そういった部分をベースに、全国的に店舗を展開されていらっしゃいますね。を教えてくださいよ(笑)。
中井:今、全国70店舗で海外も6店舗やっています。ちょっとユニークなのは、うちは元受刑者、刑務所からの人間をたくさん雇っているんです、創業当時から。創業当時、本当に人手不足で誰でもいいから欲しかったなかで、過去は一切問わないと学歴職歴一切不問ということで採用していたんですけども、まあ少年院だとか鑑別所上がりの人たちをたくさん雇いました。そういう人たちがやがて主任になり店長になり、あるいはフランチャイズオーナーになるということで、立派に更生していったっていうのがありまして。今では法務省から委嘱を受けて正式に受刑者の雇用をやっています。誰もが平等で、過去は一切問わないという人材育成のあり方というのも、千房の根幹に根付いているのかなあと思います。
芳永:ずっと続けるというその企業としての考え方、姿勢がすごいですよね。
中井:父はずっとやり続けましたが、実際、日本の社会問題としても受刑者は出所したらその約半分がまた再犯で刑務所に戻ってしまうんですね。そしてその大部分が無職だということで、仕事を与える、居場所を与えるっていうことがどれだけ彼らの再犯防止につながるかっていうのが分かりますので、そういう意味ではやっぱり雇わないといけない。でも、脛に傷がある人間は誰も雇いたくない、であるならば我々がしっかりと雇って更生をさせてあげないといけない。反省というのはひとりでできますが、更生は残念ながら一人じゃできないんですね。周りの力、周りの助けがやっぱり必要なので、我々にそれができるのであればしっかりやろうということでやっています。
芳永:いやあ……、すばらしいですね。どうですか、この9年間の社長業は?
中井:ありがとうございます。私は最初、専務取締役として入社をしまして、今年うちは50周年で、私は45周年のときに社長に就いたんですが、あんまり仕事の質が変わってなくて、もう入社をした時からずっと人事から経理から総務からもうすべてを任されまして、基本的には何をやってもかまわないと、二つの約束を守ってくれたら何をやっても構わないと言われまして。で、その一つ目の約束というのは、前職の大企業である野村證券のことを持ち出さないことです。うちは中小企業ですが、みんなプライドを持って働いてくれているんだ、だから野村證券の野の字も出さないでくれっていうこと。あとの一つは今日入ったアルバイトに至るまで、みんな自分のために働いてくれていると思えということ。要は従業員に心から感謝して欲しいと。その二つを守ってくれたら何をやっても構わないという約束です。今でも私は本当に社員に感謝していますし、偉そうに言うことではないのですが、実は私は恥ずかしながら今でもお好み焼きは焼けません。現場に出たことがない社長でして。そういう意味では、現場で働いている人たちってみんなすごいなと、尊敬の眼差しで見ているぐらいなので。
芳永:今どうですか? 店舗展開とか新しい事業ですとか。
中井:まず、コロナの三年間っていうのは外食産業でも本当に痛手でして、もうお客様がまったく来ないわけですね。特に道頓堀のお店なんてのはインバウンド、海外からのお客様が8割以上だったのでもう一時期、売上が3%になりました、97%減ですね。もうお店を開けるのも閉めるのも地獄っていう、そんな状況だったんですが、ようやく昨年の後半ぐらいからぐっと戻ってきまして、今はたくさん日本人の方、外国人の方がいらっしゃいますけれども、まずはこの三年間でかなり悪くなってしまいました。たとえば人手不足とか、原価高騰とか、コロナ前の状況とはガラッと変わってしまった……。これをまずは立て直すというのが今やらないといけないことかなと思ってます。で、食の様式。食べるということに対して、外食というものに対しての考え方がガラッと変わっちゃいましてね。コロナ禍で、まあ別に外食しなくてもなっていうものもありますし、あるいはテイクアウトするっていうのもありますし。コンビニエンスストアで買ってとか、スーパーで材料を買って作ってとかっていうことになってくる。ですから、飲食業として飲食店の存在意義をもう一回我々はちゃんと追求して、それを訴求していかないといけないなと。それはたぶんコミュニケーションだと思うんですね。
なんでみんな飲食店で外食したいのか、仲間だとか人と一緒に話をしながら食べたり飲んだり、あるいはそのお店の従業員とコミュニケーションを図りたいと、飲食店に行かれるんだと思いますね。そこはやっぱりコンビニやスーパーとは違う、あるいはテイクアウトとは違うものだと思いますので、そういったコミュニケーションの場である飲食店、我々はお好み焼き屋なので「お好みケーション」と言っているんですけども、「お好みケーション」ができる場としての存在価値、存在意義っていうものをしっかりとお客様にお伝えして行きたいなというところであります。
新規事業においてはやっぱり海外展開。これはもう避けて通れません。コロナ前からずっとやっていましたが、コロナで六店舗ほど閉めましたけれども、一応、今月二店舗フィリピンとベトナムにオープンしましたが、海外展開に関しましては再度、アクセル踏んでやっていきたいなというところと、あとは先ほど食のシーンが変わったと言いましたが、冷凍のお好み焼きですね。これも20年以上前から提供していますが、冷食事業をもう少し強化していきたいと言うふうに思っています。
芳永:いいですね〜。
中井:芳永さん、先ほどからため息ばっかり(笑)。
芳永:(笑)。
ではここで、経営者としてこれから起業される方に向けて一言いただいてもいいでしょうか?
中井:もうおこがましい限りですけれども、日々考えているのは、やっぱりフェイルファスト(Fail Fast)ってよく言いますけど、失敗を恐れずにどんどん失敗した方が経験値が積み上がっていきますし、やっぱり空気を読むところと読まないところのバランスって多分必要じゃないかなと思います。だから、自分の個性だとかこだわりっていうのを出していく必要があるわけなんですが、いつも思うんですけどこだわりってけっこう紙一重でして、こだわってやるって、これ実は相手側からするとこだわりじゃなくてもしかして嫌がっているかもしれないと。これこだわりじゃなくて独りよがりになるんですよね。こだわりを独りよがりじゃなくするためにはどうすればいいかと。認められないといけない。結局、結果を出していかないとこだわりって言っちゃいけませんよって僕は思うわけです。で、それで千房はずっとこだわってこだわり続けて50年って言いますけども、これもし結果出てなかったら多分、お客様に認めていただけないし50年も続けてこられなかったんだと思いますが、ただじゃあそれに胡座(あぐら)をかいて、これからもこだわっていきますということであってもですね、独りよがりにならないようにやっていかないと多分ダメなんだろうなというふうに思います。
そして、やっぱりしっかりと自分の力を出し切ることも必要だし、あるいは私が入社したきっかけにもなるんですけど、父親からずっと言われ続けてきた「誰のおかげで飯食ってこられたか分かってんのか」というふうに言われまして、「言うとくけど俺じゃないぞと千房の従業員が夜遅くまでお好み焼きを焼いて、店を掃除して切り盛りし、そのおかげでお前は今まで生きて来られているんだ」と、「従業員に感謝しなさい」って言われ続けてきていますので、感謝の気持ちっていうのをこれからの若い人にはもっともっと持ってほしいなって思います。お陰様っていう気持ちをどこまで持っていけるかなと思うんですけど、そういった思いで今私はやっていますので。なにか参考になればと思います。
芳永:ありがとうございます。本当、勉強になります。
中井:とんでもないです。すみません。
髙橋:中井社長、ありがとうございました。 芳永代表があまりのすばらしさにため息ばかりついていたっていうのがとても印象的だったんですが。
中井:小学校三年生のときに僕、お小遣いを50円上げてくれって父に言ったんですね。そしたら2時間ぐらい説教食らったんですけども、その時に物価も今とそんなに変わらないと思うんですが、本当にお金に厳しい人で、50円って、じゃあ道端を探したら落ちてるのか? いや、落ちてないと。50円を稼ぐためにはお父さんのお好み焼き、何枚焼いたらいいかわかるか? と小学校三年生に言っても分かんないだろうって話なんですけど、そういうことを真面目にコンコンと大人が相手かのようにしゃべるんですね。
で、僕はただただなんか怒られてる感じでずっと泣きながら聴いていたのを覚えていますけど、最終的には「お前、勉強も頑張ってるから50円上げるけども、50円のありがたみ忘れたらあかんで」って上げてくれたんですが、昔から従業員に対しての感謝の気持ちを持てとかですね、従業員は家族だっていうのをコンコンと言われ続けていましたので、兄が亡くなって後継者がいないことで多分父も迷ったんだと思うんですね。私も野村證券で順風満帆でしたし、給料が半分以下になるのは分かっているわけですよ。(野村で)めちゃくちゃ給料をもらっていましたのでね。それでもやっぱり私に言ってくれたってことは、やっぱり私も千房の従業員が困ってるのであれば恩返しをするのは当たり前だろうなということで、従業員に恩返しするために千房に入ったっていうのがありまして。
ですので、私の目標は店舗数を広げていくとか、売上利益をこれだけにするんだとかじゃなくて、本当に千房の従業員が世界一幸せだと思えるような会社、それってけっこう抽象的なんですけれども、私は臨店すると従業員の顔を見るんですね。で、必ず「絶好調かい?」って聞くんですけど、「いや、ちょっと……」っていう人間は誰もいなくて「絶好調です」ってみんな言う。なんかそういった従業員の笑顔みたいなのを見るだけで、私はすごくありがたい。幸せを感じるわけなんです。
髙橋:コンセプトも「愛」ってことでしたので、今すごく中井社長の愛あふれる言葉にジーンときました。いや、でもあの元受刑者のお話ですね。元受刑者の方も積極的に採用されているってことで、中井社長ご自身も篤志面接委員として面接されるんですね。
中井:刑務所に行って、私は受刑者の改善指導を偉そうですが、やっておりまして。私がやってるのは釈前指導といって彼らが釈放される前に、社会に出る前に、ちょっとこういった思いを持ってくださいという話をするんです。受刑者は釈放前ですから浮き足立っているいるわけなんですけれども。たとえば、刑務所で一人受刑者を生かせるためにいくらぐらいお金かかるかご存じですか?
髙橋:けっこうかかるとニュースか何かで聞いたことありますが、具体的には……。
中井:はい。実は300万円から350万円かかるんですね。で、これ受刑者に聞くんですよ、「これ誰が払っているか知っていますか?」と。みんな「税金」って言うんですけど、「税金じゃないですよ。罪を犯していない人たちがあなたたちを生かしてるんですよ」と。もちろん税金なんですけれども、「罪を犯していない人があなたがたを生かしてるんですよ。当たり前だと思っていませんか?」っていう話ですね。「ありがとうの反対の言葉知ってますか?」と聞くんですが、ありがとうの反対の言葉って「あたりまえ」なんですよ。みなさんが刑務所で何不自由なく暮らしてる。これ、当たり前だと思っていませんか? と。当たり前じゃないです。当たり前じゃなかったら、その反対はありがとうございますと感謝の気持ちを持っていましたか? 自由がないとか人間関係がつらいとか、みんな文句ばっかり言って、感謝の気持ち、誰も持っていないでしょうと。これから出所するにあたってはやっぱり感謝の気持ちを持ちながら、一日一日、自分の力で生きてくださいねっていう話を偉そうながらするんですけど。やっぱり再犯を防止したいっていうのが、我々の思いなんです。それを彼らに伝えていこうと思います。
髙橋:そうなんですね。ありがとうございます。
私、千房さんのイメージはやっぱお好み焼きで、お好み焼きイコール庶民の食べ物っていう印象が大きかったんですけど。でも、千房さん、ベーシックとか『ぷれじでんと千房』とか、あと『千房エレガンス』とか、いろいろコンセプトごとに分けて展開されているということなんですが、この辺り詳しくお聞かせいただけますか?
中井:そうですね、そもそも父は洋食屋さんをやりたかったそうですね。でも訳あってお好み焼きをやらないといけない、お好み焼きを食べるのは好きだけども、自分が事業でやるのは嫌だと、カッコ悪いと思ったんですね。でも、やりながら「ちょっと待てよ」とカッコ悪いとオーナーである自分が思ってたら、そこで働く従業員みんなもカッコ悪いと思う、であるならば、従業員が誇りを持って、プライドを持って働けるような、そんなお好み焼き屋さんにしようということで創業当時からほかのお店よりも良い食材を使ったりだとか、いい内装に、いい設(しつらえ)にしたお店を作っていたんですね。今、ぷれじでんと千房ってあるのですが、お客様単価でおおよそ1万円を超えるんです。実は東京の虎ノ門に琥 千房っていうお店があるんですけど、こちらで一番高いのは3万5千円というコースがありまして。さすが東京だなと思うのは、それでもお客様には大変喜んでいただいて、たくさんのお客様が来ていただいてるんですけども、そういった、お好み焼きっていうものの価値を度外視した、まあちょっと、もう完全に違う食べ物として紹介をしていくっていうのがコンセプトとしてはあります。あとはチェーン店が70店舗もありますから。チェーン店でありながらチェーン店らしくないお店を目指したいと思っています。
髙橋:海外にお店を出されるお話ですが、やっぱり外国人の舌に合うように何か趣向を凝らされているとか、そういうことはあったりするんでしょうか?
中井:もちろんです。もう全世界どの店舗もそうですけれども、基本的にローカルの人に愛されるお店を作らないとダメだと思うんですね。で、ある程度はもちろんうちのお店ですからうちの看板を目指しています。で、うちの看板どおりのお店、あの味を出すというのももちろんですけれども、ただ基本的にはローカライズさせるっていうことが必要だろうなと思います。
ですので、たとえば道頓堀のお店は今7割8割海外の方がおられます。ただ、海外の方向けの料理メニューを作ってしまうと、多分地元のお客様に愛されないと思うんです。 たとえば、うちのハワイのお店がありますけれども、日本人の観光客がたくさんいるわけですよ。だからと言って日本人向けのお店を作ってしまうと、多分ローカルの人たちに飽きられてしまい良くないお店ってことになっちゃうから。
まあ、たとえばベトナムの飲食店っていうのは、品数がとにかく多くしないといけないということで、うちのメニュー以外の、たとえば串カツとかですね。カレーライスとかラーメンとかいったもの。まあ、当然お好み焼きがメインなんですけど、ただローカルに合わせてローカルに愛されるお店づくりっていうことで全世界全店舗を育てています。
髙橋:従業員教育についてはいかがでしょう?
中井:そうですね。基本OJTがメインですので、たとえばぷれじでんと千房だとかっていうのも、カウンターシェフに関してはやっぱ徹底的に育成、現場でOJTでやっているというところもありますし、最近ではスマホで調理マニュアルとかいうのは見られるように、すべてのアルバイトも含めた従業員が見られるようにしてます。今はこういったツールがあるからすごく便利ですよね。
髙橋:DX化と付加価値提供についてはどうお考えでしょうか?
中井:この人手不足のさなかでDX化は避けて通れないと思うんですが、ただ我々の商売って非効率的な部分が付加価値を呼ぶ商売でもあるんですね。たとえば水とか机の上にぽんと置いておけばいいんでしょうけれども、それよりも従業員がお水いかがですか? と言ってお水を注ぐのとですね。机にポットがポッと置いているのって、ちょっと違うわけですね。でも、その分人件費はかかるわけですよ。非効率的なわけです。でも、非効率な部分が付加価値を呼ぶ。そこに従業員とお客様との接点が生まれるから、そこにお好みケーションが発生するってことなんです。
最終的にお客様との接点っていうのは、絶対に人を介さないといけないと僕は思います。そこは飲食店としての付加価値だからですね。ただ、バックヤードに関しては徹底的に効率化を図らないといけない。
本当に人材不足、もうこれに尽きるわけですけども、これは多分、今後も解消しないんだろうなと思います。外国人の従業員もたくさん、今、アルバイトに留学生とか来ていただいてますけれども、それでも足りないんだろうなと思います。ある程度はバックオフィス、バックヤードも含めて効率化をしていかないといけないところもありますし。今度、配膳ロボットをうちの店舗でもあの何店舗か、そういったものもやっていかないと多分難しいんだろうなと。今まで5人必要だったものを3人とか2人とかにできるような体制づくりっていうのをやっていかないと難しいんだろうなというふうには思いますね。
時間限定社員とか店舗限定社員とかって、そういったパートの方でも正社員として働けるような仕組みを作ってしっかりと従業員の方の雇用を守る、そういった仕組みにしました。それは飲食店のバランスシートに見えない最大の資産っていうのが多分人、従業員でありますので、そこだけはしっかりと守って、かつブラッシュアップしてく仕組みを作っていきたいと思います。
芳永:中井社長のお話を聞いていて思うのは、心の底から出てくる言葉だなって感じがするんですよ。
中井:これは多分、父がずっとたぶん思い続けてきたことで、これ、千房の名刺なんですけど、マークがありますがこれなんの形かわかりますか?
芳永:人、ですか?
中井:そうなんです。それぐらい人にこだわっている会社、そりゃあもう父がずっと続けてきたことなので、私はただそれを踏襲してるだけですね。
髙橋:今日はすばらしいお話を本当にありがとうございました。
芳永:どうもありがとうございました。
中井:こちらこそありがとうございました。
2023年2月13日収録