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未来の物流に大切なこと
〜コミュニケーションとテクノロジーで笑顔の連鎖を創造

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司会・髙橋明美(以下髙橋):第104回経営者対談を始めさせていただきます。本日のゲストは、共立運送株式会社代表取締役の大槻淳一様です。どうぞよろしくお願いいたします。

 

大槻様は1965年9月、兵庫県伊丹市出身で現在もご在住です。京都産業大学法学部を卒業後、住江織物株式会社車両事業部でJRや私鉄、バスなどの内装材の生産・販売統括に従事。その後、1996年に共立運送株式会社に転職しました。転職後、わずか1か月で先代の社長が急逝し、代表取締役に就任。社内システムの構築、組織改革、人材育成を進め、幾度も挫折を経験しながらも、「金」より「人」を重視し、従業員とその家族の幸せを追求してきました。現在、会社は71期目を迎え、100年企業を目指し、ビジョンとして「人と人がつながることで幸せな世界を創る」を掲げています。

 

芳永尚(以下芳永):大槻社長も、何度もオファーを重ねてようやくご登壇いただけました。ありがとうございます。今のご紹介にあった経歴について、もう少し詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか。もともとはインテリア業界で働いていたんですね。

 

大槻淳一(以下大槻):はい、最初はそれが自分の一生の仕事だと思っていました。私の家族は共立運送の創業者で、祖父の代からやっており父が社長をしていましたが、私が継がないのであれば会社を閉めると言われました。従業員のみなさんとも顔なじみで、経営も順調でしたので、「もったいないんじゃないの」と言われ「みなさんが協力してくださるなら」ということで、前の会社を辞めて転職しました。しかし、入社して1か月後、父が急逝し、代表取締役に就任することになりました。自分に何ができるか分からず、社員の皆さんに助けを求めて、なんとか会社を存続させることになったのです。

 

芳永:そのとき、大槻社長はおいくつでしたか?

 

大槻:31歳ですから、もう27年になります。

 

芳永:いきなり社長になられて、心の中はどうでしたか?

 

大槻:やるしかなかったですね。会社を存続させるために戻ってきたわけですから、社員のみなさんの力を結集して何とかしようと。それが私の使命だと思っていました。

 

芳永:最初の壁はどこに感じましたか?

 

大槻:壁というか、まず最初に感じたのは、数字が本当に正しいのかということでした。数字を分析し、誤魔化しがないかをチェックしました。従業員一人一人がどんな人なのかも分かっていなかったので、どういう考えで働いているのかを理解することから始めました。当時は、オペレーションがうまく回っていれば何とかなっていた時代で、バブル崩壊後の平成8年頃、効率化が求められていました。そこで最初に行ったのが、数字の分析と効率化です。それまで伝票は手書きで、運賃計算などはすべて人の手で行っておりコンピュータやパソコンはほとんど使われていませんでした。一部、請求書の発行にオフコンを使用していた程度です。私はすべてをパソコンで入力しサーバーに入れる格好で統一し、各営業所のデータも統合しました。その結果、事務作業の人件費を削減できました。

 

芳永:最初、パソコン化に反対する意見もあったんじゃないですか?

 

大槻:ありましたね。「手でやった方が早い」という声があったのですが、半年後には「これがないと困る」と言われるようになりました。

 

芳永:その後、御社の「三つの指針」については、どのように取り組まれているのでしょうか?

 

大槻:まずは企業理念ですが、「三方よし」という言葉があります。「自分よし、相手よし、世間よし」という意味ですが、社会に認められる企業であること、お客様を大切にすること、そして仲間を大事にすること、この三つを掲げています。行動指針としては、最初に「同僚が先、自分は後。与えるものが与えられる」という言葉があります。この業界では給料は歩合制が多いため、自分のことばかりを優先する人が多いのですが、それではチームワークが生まれません。そこで、歩合制を廃止し、月給制に変えました。これは、常に周りを見てほかの人のことを優先して考えることが、最終的には自分に還ってくるという考えに基づいています。この考え方が浸透するまで、約10年かかりました。

 

芳永:理念づくりは社長になって何年目くらいから始めたのでしょう?

 

大槻:2、3年目くらいには取り組んでいました。最初は言葉だけでしたが、幹部の方々と一緒に形にしていきました。その存在があったからこそ、会社が変わったと思います。

 

芳永:理念を浸透させるのには時間がかかりますね。

 

大槻:非常に時間がかかりますね。ある100年企業の経営者さんから「文化を作るには30年以上かかる」と言われました。また、「社長として成長するには20年かかる」とも言われました。思い返すと、その通りだなと思います。自分がぶれずに進むことが大事で、変化は一朝一夕には起こらないんです。

 

芳永:その後、10年間でどのような取り組みをされたのでしょうか?

 

大槻:今から10年前に、いくつかの倉庫を統合し、新しい土地に物流センターを建てました。その倉庫を単なる収納場所ではなく、物流のショールームにしようと考えました。お客様を含め、異業種、同業者の方々に見学してもらい、5S活動(整理整頓、清掃)を体験していただいたり、保管や物流のあり方などについて話し合ったりしました。毎年、多くの方が見学に訪れ、企業の信頼性を示す場となりました。

 

芳永:運送業でそのような取り組みをしているのは珍しいですね。

 

大槻:そうですね。普通は倉庫を見せることはありませんが、見てもらい体感いただくことで「ここならば任せて安心」と信頼と納得を得ることができます。見学後にアンケートを行ない点数もつけていただくのです。これが改善点を発見するきっかけになりますし、従業員の励みにもなったりします。

 

芳永:では、若手の経営者に向けて、何かアドバイスをいただけますか?

 

大槻:経営者として一番大切なのは、ビジョンを持つことです。理念、ビジョン、ミッションをしっかり構築し、それをぶれずに発信し続けることが重要です。また、人には必ず輝く部分があります。それを活かし、弱い部分は助け合って補完し合うことが大事です。最終的にはお互いの成長が、その周りにいる方(ご家族含め)会社やお客様、社会に良い影響を与えると思います。終わりはありません。ずっと続きます。

 

芳永:確かに、経営には終わりがないですよね。ありがとうございます。

 

髙橋:大槻社長は、組織改革に対して並々ならぬ努力をされてきたのですね。ありがとうございます。さて、次に、働き方改革関連法による労働基準法の改正と、それに伴う「2024年問題」についてお聞きしたいと思います。

 

大槻:やはり、人手不足の問題が大きいです。加えて、残業時間の制限や長距離輸送の難しさが課題です。最近では、外国人ドライバーの採用が議論されていますが、今後は外国人ドライバーの雇用が承認されるのではないかと思います。あとは運行管理の厳格化です。それができなければ営業停止になりますので、業界が淘汰されます。

 

芳永:厳しい現実ですが、その2024年問題への御社としての明確な取り組みはどういったものでしょうか?

 

大槻:弊社は自社の近隣エリアを中心に運行しており、残業は月80時間以内で収まっていますので、そこに関しては問題ありません。長距離輸送が必要な企業は、管理がしっかりしている運送会社と提携することが大切です。たとえば、大手自動車メーカーは運送業務の管理項目を点数化し、その上位にある企業としか取引しません。

 

髙橋:厳しい状況ですね。

 

大槻:はい、そうしないと安定した運営は難しくなります。一社でも抜けると、計画が崩れてしまい、物が運べなくなります。

 

髙橋:ちなみに、大槻社長は外国人ドライバーの採用について積極的に考えていらっしゃったのでしょうか?

 

大槻:十数年前から海外視察を行ってきましたが、最大の障害は漢字が読めないことです。日本語は流暢に話せても、伝票などはすべて漢字で書かれています。日本国内を運転する場合、標識もすべて外国語で併記されているわけではないですし。ナビゲーションを使えばある程度はカバーできると思いますがなかなか難しいと思っています。それでも、日本語学校などから「インターンとしてどうですか?」というお話もいただいており、少し考えなければと思っています。

 

芳永:先月、東南アジアに行かれたそうですが、現地視察ですか?

 

大槻:はい、ここ15年ほど行っています。日本の物流は非常に緻密ですが、東南アジアの物流も様々です。先月は自動車製造に関わる現場を視察し、原材料をアジア圏で加工し、最終的に各自動車メーカーに届けるというプロセスを見ました。その中の倉庫では200人以上が働いており、5S活動を徹底しています。日本の企業と取引するために、100%の品質管理を目指しています。一部機械化されていますが、人件費が安いため基本的には人で行われていることが多いです。人が行うことなので間違いも起こりやすいです。もちろん、「間違わないように」という仕組みが必要ですが、最終的には人の思考や解釈が違うと、うまくいきません。そこでお互いに注意し合ったり目標を決めて優秀なチームや個人の優秀な方の表彰を定期的に表彰も行っておられました。

 

芳永:大槻社長は、国内物流の未来をどう考えていますか?

 

大槻:AIや自動運転車、自動倉庫など、様々な技術が登場するでしょう。しかし、大量の物を効率的に動かすためには、自動化されたシステムが有効です。たとえば、Amazonの自動倉庫のようなものです。ただ、私たちは中小企業で、お客様のニーズは「もっと融通を利かせてほしい」というものです。様々な形のものや商材や対応時間をお客様のリクエストに応じて話し合いながら対応していくには、コミュニケーションを通じてお互いを知り合い、お客様の考えていることをイメージして感じ取り、思考して「こういうものがありますがいかがでしょう?」という形で提案できることが重要だと考えています。問題があれば話し合って、進めていきたいと考えています。

 

芳永:顧客に合わせた提案をしていくということですね。

 

髙橋:「絶対にお断りしません」という方針について、どのような経緯で決まったのでしょうか?

 

大槻:20年ほど前、メンバーが忙しくて「できません」と勝手に断ってしまったことがありました。その際、お客様に「あの時断ったよな?」と言われ、「一生覚えておく」と言われたんです(笑)。

 

(一同笑)

 

本当の話です。お客様の立場になれば、なんとかしようと一生懸命に調べて考えた結果をお伝えして「現状こうすることしかできないのですが」と説明すれば、納得される。今できにくいことであっても、即座にできませんと断るのはダメと考え、「どうすればできるかを考えよう!」と人材育成に力を入れるようになりました。そして、自社だけでやるのではなく、いろいろな企業さんと繋がりがありますので一緒に解決策を見つける方向で進めています。

 

芳永:御社と提携している企業さんはかなり多いと聞きました。

 

大槻:はい、大手路線会社とも提携していますし、中小の運送会社とも連携しています。倉庫業者とのネットワークもあります。

 

芳永:その連携ノウハウはかなり蓄積されているのではありませんか?

 

大槻:ノウハウと言えば、「人とのつながり」ですかね。長く続けている方もいれば、離れる方もいます。信頼関係が築かれていき、お互いに悪いところも良いところも言い合える関係が大切です。良いところは言いやすいですが、悪いところを「これはダメなんじゃないの、どうする?」と指摘できる関係こそ、強い絆が生まれると思います。

 

髙橋:御社は社会貢献にも積極的ですね。

 

大槻:そんな大したことはしていませんよ。

 

髙橋:いえ、非常に素晴らしい活動をされていると思います。少しお聞かせください。

 

大槻:子どもの教育支援を10年ほど続けています。自分には子どもがいないのですが、ある方に「世界中の子どもたちに何かしてあげるお役目があるのでは?」と言われ、モンゴルに行って実際に支援活動をしている方々に話を聞きました。そこには30代の女性マネージャーがいまして10数人のスタッフで7万人の子どもたちを支援していると聞き、感動しました。5000人のサポーターが協力し、プログラムを組んでPDCAを回しているという話を聞き、現場を見て支援することに決めました。そこは人のつながりで成り立っていたんです。思いがあってビジョンがあって、ちゃんと計画を立ててチェックをして人材育成もして。それ以来、モンゴルやカンボジア、ラオスなどで支援を行っています。ラオスでは60人の有志がお金を出し合って小学校を建てて、その後教育のサポートもやっています。モンゴルでは支援が完了し、現在はスリランカの子どもたちの支援活動を行っていて、今年初めに現地に行ってきました。

 

髙橋:素晴らしい活動です。なかなかできることじゃないですよね。

 

大槻:いえ、やるかやらないかです。気持ちの問題です。大きな金額を寄付することが全てではなく、継続的に支援し続けることが重要だと思っています。社員にもその思いを伝え、話したり写真を見せたりしていますが、「ちょっと自分の気持ちが変わってくる」とか「世界と繋がっている」と、その大切さを感じてもらえるよう努力しています。会社としても、社員一人一人の成長を支援し、豊かな人生を送ることが結果的にその人も良くなるし、ご家族も良くなるし、会社も成長し社会貢献に繋がると考えています。

 

髙橋:本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

一同:ありがとうございました。

2024年4月9日収録

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