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光と共に未来を創造〜光学専門商社のトップに聞く

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司会・髙橋明美(以下髙橋):第103回経営者対談を始めます。本日は株式会社マブチ・エスアンドティー代表取締役社長・馬淵崇様をお迎えし、『光と共に未来を創造〜光学専門商社のトップに聞く』をテーマにお送りいたします。

 

馬淵様は1976年長野県生まれ、2003年近畿大学大学院機械制御工学専攻を修了された後 キャリアを積まれ、そして株式会社マブチ・エスアンドティーに入社。香港法人出向そして海外営業部部長、代表取締役専務を経て2019年 代表取締役社長に就任されました。

さあ、今日はいったいどんなお話が聞けるのでしょう。芳永代表、お願いいたします。

 

芳永尚(以下芳永):馬淵社長、本日はどうもありがとうございます。さっそくですが、株式会社マブチ・エスアンドティーってどういう会社なのでしょう?

 

馬淵崇(以下馬淵):よろしくお願いいたします。まず創業当時のことです。元々私の曽祖父は名古屋におりましたが、戦時中に戦火を逃れて長野県に来ました。長野県は精密機械の企業さんが多いところですが、特に戦時中に疎開された企業さんが非常に多かったので、そういったところを生業にしようと今の仕事が始まりました。当初はお父さんお母さんに子どもも入ってという小さな家内工業、家内施設といった体の会社でした。創業者は私の祖父なのですが、祖父は誰よりも愛といいますか人と人との関わりを大事にして、情が厚くて凛として、私が子どもの頃は近づきがたい人でした。そのうち一人二人と仲間が増えていき、当初は「光学」と言いますが、カメラや顕微鏡に使われるレンズとかフィルターといった製品を作るための研磨材や装置というのを収めて、徐々に仕事が増えていきました。

 

芳永:そういった創業だったのですね。馬淵社長は何年前に入社されたのですか? また、そのころの御社はどんな感じだったのでしょう?

 

馬淵: 2006年入社で、当時おそらく従業員50名ほどだったと思います。

 

芳永:入社後、海外に出向されていたと先ほどありましたが。

 

馬淵:私は大学を出てほかの会社に就職し、まだまだ社会人としては一人前ではない状態でマブチに入りました。使いものになるかどうかでしたが、とはいえ海外との商売ですからマブチの現地法人、香港ですが、に送り出していただいて3年間しっかりと学ばせてもらいました。

 

芳永:海外の拠点はいくつぐらいあるのでしょう?

 

馬淵:最盛期はタイ、シンガポール、香港、韓国、台湾それから蘇州(中国)と6拠点ありましたが、現在は韓国、台湾、蘇州の3拠点です。

 

芳永:2019年に社長になられたということですが、社長業はいかがでしょう?

 

馬淵:ちょうど先日、同友会という団体の諏訪支部より事業承継に関してちょっと講演をしてくれないかというお話がありまして、日々動き回っていると、自分の生まれた頃から社会人になって社長になってということを置き去りにしてきた部分があったなと、あらためて自分を振り返る良い機会になりました。今更ながらに考えますと、よくわかっていないときにいろいろと引き継いできたのが逆に良かったんだなと思います。こうして社長業をして知識だとか感覚でいろいろなものをギュッと圧縮してしまうと間違いなくリスクを考えて避けていたかなというふうには思いましたね。

 

芳永:現在の事業展開をもう少し具体的にお伺いしてもよろしいでしょうか?

 

馬淵:創業期は光学という部門で仕事が増えていきましたが、光というのは光学だけでなく様々な分野に応用されてきました。特に長野県で最大のお得意様にセイコーエプソン様がいらっしゃいます。プリンターやプロジェクターで有名なエプソン様ですが、みなさん知らないと思いますがカメラをやっていたこともありましたし、つい10数年前までは液晶モニターもやっていました。お客様がそうやっていろいろな商品を作ろうとしたときに弊社もそれに追従して、装置・資材をトータルで提案させていただきながら成長してきました。もともとベースの光学に加え、お客様に学びながら徐々にデバイス半導体といった領域まで広げて現在に至ります。

 

芳永:なかなかちょっと一般的にはわからない業界といいますか。たとえばどんな分野で展開されていらっしゃるのでしょう?

 

馬淵:われわれの商売は物を作ってお客様にそれを売るという商売ではありません。商社でいう「卸」という領域になるのですが、なおかつうちのような商社はメーカーさんがなかなか入り込めない、付き合えないお客様とお付き合いをするだとか、あとは逆にお客様がなかなか仕入れることができないメーカーさんとの間に入るだとか、いろんな事情があるなかで活躍します。ですから商品だけではなく、たとえばお金の流れであったり物の流れであったり、われわれが間に入ってうまく調整をすると、あとこれは商社の特権ですが、物を作っていませんからいろいろなお客様とお付き合いができるんですね。しかも国内だけではなく海外も含めて。ですから、お客様と商談をするなかで悩み事を伺ったり「こんなことしたいんだよ」っていうご相談をいただけば、われわれが過去の経験やルートから物をチョイスしてトータル的にご提案ができます。単品の物売りではなくソリューションに付加価値を加えて提供させていただく、そういう商売をさせていただいております。

 

芳永:差し支えない範囲で具体例を教えていただけますか?

 

馬淵:みなさん使われているスマートフォン。スマートフォンにカバーガラスといってガラスが付いていますよね。タッチパネルのガラスの外周加工だとか穴あけ加工の装置であったり砥石というのを韓国のS社さんとか、国内のメーカーさんにも収めさせていただいていました。それ以前に身近だったのが富士フィルムさんの写ルンですというインスタントカメラ。あの当時のカメラのレンズを磨く機械。これはどうでしょうね、半分近くは弊社の機械だったんじゃないかと思います。

 

芳永:よく建設会社さんで建物が建ったとか橋できたとかするとそれを見るたびに「これはうちの会社がやったんだ」みたいな話がありますよね。世間中が知っているわけではないけれど、実は自分の会社が関わっているんだっていうのは、なんだかうれしいですよね。

 

馬淵:おっしゃられるとおりでそれが本当にうれしいですし、日本にはすごく技術力の高いメーカーさん、中小企業さんが多いのですが、その良さを引き出したり可能性を伸ばす商社ってたくさんあるんですよ。弊社はこんな程度のものですけども日本の経済を下支えしているというか、おそらくわれわれだけではなくいろんな中小の商社のみなさんは、「あれうちの製品が関わっているんだよ」って自慢し合ったりしていると思うんですよね。

 

芳永:いや、おもしろいですね。海外に行かれて同業の商社さんの方とお話しされることがあると思いますが、そんなときにそんな話をしてそうですね(笑)。

 

馬淵:三者三様と言いますか、各社さん当然会社を構成されている人が違うだけではなくて得意としている領域だとかルートが違いますから。当然コンペティターもいれば、コンペティターのなかでもパートナーとして協力している商社さんもたくさんおりますので、コンペティターだからというしがらみは海外にいるとまったく関係なく、気軽に情報交換でお互い探り合ったり学び合ったりってことが日常茶飯事です。

 

芳永:本当に馬淵さんって柔和ですごく楽しくお話できる、ちょっと失礼な言い方になるかもしれないですが、御社のサイトにも「大家族のような」というキーワードがありましたが、そういうお人柄で会社を率いていらっしゃるんだなというのが伝わってきます。そんな馬淵社長から、ぜひ、これから起業されようとしている方や経営者の方に向けてひと言いただいてもよろしいでしょうか?

 

馬淵:会社の規模とか状況は千差万別ですが、大きくても小さくても会社を継続していくというのは自分一人のことではなく、一緒に働いている仲間や関わってくれている人たちの家族も含めた命を預かっているということ、その生活を守っていかなければいけないということだと思うんです。さらに、私もそうですし一緒に働いている仲間も、当然だんだん年を取って引退してゆくゆくは死んでいくわけですが、でもそれを引き継いでいく若い人がいるわけですよね。しかもうちの会社だけではなくうちの会社が関わっている仕入先やお客様も含めて。そういう人たちの未来を預かっている責任がある。だから使命感とやりがいは何にも変えがたい、おそらく経営者妙利と言いますか逆を言えば誰にも相談できない部分があると思いますが、ぜひそういう使命感を持って、あとは楽しんで、そうはいっても明るい未来へ向かって若い人たちのためにやっていくのは本当に楽しいことですから、どんな辛いことでもいつでもハッピーな明るい気持ちでいくのがすごく重要だということをお伝えしたいと思います。

 

芳永:ありがとうございます。

 

髙橋:ありがとうございます。次に「マブチ(株式会社マブチ・エスアンドティー)が描く未来そして思い」ということでお話しいただきたいと思いますが、私サイトを見させていただいてインパクトがあるなと思ったのが、『過去に感謝 現在に信頼 そして未来に希望』という文言で、まさにそういう心持ちで常に取り組んでいらっしゃる馬淵社長だと思います。

 

馬淵:社是の『過去に感謝 現在に信頼 そして未来に希望』、本当に私この言葉が大好きで、この社是を設定したのは二代目社長である私の父ですが、本当に人生を表わす言葉じゃないかなと私は思っています。過去は変えられませんし、良いことも悪いこともあったおかげで今の自分が存在していることに間違いないですから、私が勝手に解釈しているのは過去に感謝ということでそこで終わり。良いことも悪いこともそれで終わり。大事なのはこれから。今いる人たちとの信用、信頼関係、これから未来に向かって若い人たちが働きやすい、生きていける、そういった世界をいっしょに創造する、作っていく、そういう意味でこの言葉が大好きですし、そういった思いで仕事をしています。

 

髙橋:すばらしいです。メモをとらせていただきました。次に、2024年3月11日、健康経営優良法人2024にも認定されたとおうかがいましたが。

 

馬淵:通常この健康優良法人の認定を取るために業者さんを使う企業が多いのですが、うちは有志のメンバーだけで取ったので、ほかの会社さんから驚かれます。仕事をするだけではなく生きていくための健康第一ですので、みんなで健康になろうよと有志で始めたんですね。

 

髙橋:それを会社の取り組みではなく有志でやられていることがすごいことですよね。

 

馬淵:もう3年目くらいかと思いますが、アメーバプロジェクトということで会社のなかの難題とか問題をみんなで良くしようと部署関係なく人が集まってプロジェクトを立ち上げることをはじめたんです。この「健康優良法人認定を取る」というプロジェクトもその一つだったのですが、そういったものが社内で活発に起きていて、会社がこの数年でもう見る見るうちに変わっていきました。うちの会社に来られるとわかると思うんですが、まあ明るいです(笑)。

 

髙橋:(笑)社長を筆頭に明るい会社っていいですよね、社員のみなさんに伝染しているんでしょうね。

 

芳永:ワンフロアにみなさんいらっしゃいますし、社長室はないんですよね。

 

髙橋:だから距離感が近いんですね。

 

馬淵:はじめにお話しさせていただいた通り、家族から始まってどんどん増えてきた仲間とも家族のような付き合いでというところが強くて、本当に仲がいい会社です。「愛ある経営」「第家族主義」というのはそこなんです。

 

髙橋:特に何か力を入れているものがあれば教えていただけますか?

 

馬淵:企業にとりまして経営理念、ビジョンというのはあまり変えるものではないと思います。やはりその会社が創業した当時から大事にしている文化、考え方をまとめたものが理念であり、その理念をもとに目指していくビジョン=経営ビジョン、これから経営していくうえで何が大事なのだろうかということですね。

弊社の経営基本方針は私が一人で考えたものではなく、社の幹部全員が集まって考えたものです。ですからこれにつながった営業方針・戦略であったり、あとは管理方針・戦略であればみんなで考えたので他責にはできないですね。自分で考えた以上責任がある、もっとやらなきゃいけないとになると思いますので、そういう意味でリンクした経営が今出来ていると思っております。

 

髙橋:みんなで考えるっていうのはすごくいいことですよね。最後に今後の展開、馬淵社長が描く未来をお聞かせくださいますか?

 

馬淵:コロナがありこの数年経済も生活も停滞しましたが、いつまでも悪いことは続きません。ただ、あれからアメリカ、中国、ドイツと各国で国民にお金をばらまくということが続いていますので世界恐慌が来るのではと感じています。それに備えて今から何ができるかというと、さっきの社是じゃありませんが、未来に希望だと思うんです。どんな苦しい大変なことがあってもいつか晴れますし、生きているってことはそういうことだと思います。

これは私の香港時代の経験ですが、香港はまかないさん(お手伝いさん)がマレーシアとかフィリピンから来ているんですね。そういった方々は週末に香港の家の家族が揃う日は行く場所がないので公園に出てお友だちと弁当を食べるのですが、この方々は大体自国に働かない旦那さんがいて年中仕送りをしているんです。普通ならもう疲弊していると思うのですが公園にいるときは、まあやかましいくらい元気です。アグレッシブにそこで商売をしたり。なんだろうこの元気はって。その元気に接したとき、人の原点ってなんだろう、みんなを幸せにするためにはやっぱり明るくすることだなという体験をさせてもらいました。われわれが向かうのも明るい未来で、少しでも良くしていこう、新しいものにチャレンジしていこうと考えながら行動しています。

 

髙橋:ビジネスとしてはやはり海外に向けてというお考えでしょうか?

 

馬淵:これからはグローバルでの勝負の時代ですから。しかもコロナの後よりブロック的に各国独立して自分たちで物を作って自国内で消費するということが非常に強くなってきています。原材料の調達も含めて非常に難しい時代ですから、そういう各国に対して仕事を展開していけたらと思っております。

 

髙橋:精密機器は今後どうなっていくのでしょう?

 

馬淵:「精密」ですので厳しい精度や厳しい要求がずっと必然的に続きます。その一方でそこそこでいいやっていうローエンドもあり、二極化でいくと思うんです。そこを確実に抑えていけばわれわれが解決できる商品をご提案し続けていくことが可能だと思います。ただコロナがそうでしたが、経済が止まってしまうと物も入らなくなりますので、そのときにどうやって食べていくのかと。生活に直結した衣食住環境がきちんとしていなければ生活できませんから、そういう食の環境改善の仕事をやっていきたいと内心考えながら動いている最中です。

また、われわれはなんといっても創業当時から光に関わっていますからいいものをいかに精度よく加工できるか、その精度を保証できるようするといったところはこれからも力を入れていくところかなと思っています。

 

芳永:先ほどおっしゃっていた食に関わる部分ですと具体的なイメージはありますか?

 

馬淵:これは日本全国にいえますが、今農業、酪農の後継者、成り手が圧倒的に足りないんですね。どんどん廃業している。しかも原材料、肥料、原油が値上がりした影響でみなさん赤字です。長野県って田畑がすごく多いので放っておくとみんな休耕田になってもう草ぼうぼうで大変な騒ぎになってしまうと思うんです。また、そんなに遠くない将来、食料が手に入らないっていう問題が起こると思います。そう考えると必然ですが、地元の成り手のいない農業をどうしていくのか。あとは野菜や食べ物の保存をして食のリスクを減らしていくとか、そういった取り組みは絶対必要です。

 

髙橋:高校生が会社来訪されたりという取り組みをされていらっしゃるんですね。

 

馬淵:まずはうちの会社を知ってもらおうと。すぐ入社してもらうとかではなく、ゆくゆくは「あそこにこんな会社あったぞ」ということで縁がつながってもらえれば。仲間が増えたらありがたいなと思い積極的に宣伝をしています。

 

芳永:多分、見学に来られた方も親御さんも、ここだったらいいからっていうのが見えるような気がします。

 

馬淵:ある意味厳しい目で見ていただければと思いますね。「なんだ、全然できていないじゃないか」とか、親御さんから「暗いなこの会社」「汚いな」などと言われれば、どんどん改善してよくしていけばいいことですし、常にアグレッシブに明るくやっていきたいと思います。

 

芳永:60歳を過ぎた新入社員の募集しませんか(笑)?

 

馬淵:実は若い人たちのためだけの会社じゃないと考えていまして。うちの定年は60歳ですが、これはいずれ65歳になり70歳になり、一生のうち長く会社に勤めなければいけない時代が来ます。そういう方にもいろんな働き方が提供できればということで、定年を迎えいったん退社をされた先輩とビジネスパートナーになりましょうと、場合によっては「お金を出しますから起業しませんか」みたいなことまで、第二の人生を楽しんでいただければわれわれにとってもうれしいですし、それが相乗効果で仕事になればありがたいなと、そういう夢を描きつつ試みを始めております。

 

芳永:本日は素晴らしいお話をありがとうございました。

 

馬淵:こちらこそ、ありがとうございました。

2024年4月3日収録

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