旅の教え
- ncu807
- 10月8日
- 読了時間: 2分
小学生の頃、私は一人で小樽まで旅をした。
札幌駅までは姉が付き添ってくれて、バスに乗せてくれた。
小樽駅では両親が待っていたから、本当に一人だったのは車中の一時間ほど。
それでも、初めての「一人旅」として、胸に深く刻まれている。
バスが発車するまでは元気だった。
だが、走り出して間もなく、急に寂しさが込み上げてきた。
目に映る景色が流れていくのと同じ速度で、不安が心を満たしていった。
思わず泣きそうになったそのとき、隣の席の女性が話しかけてくれた。
「ひとり旅?えらいね」
そう言って、お菓子をくれたり、あれこれ話しかけてくれたり。
その優しさに触れて、心がすっと軽くなった。
小樽に着くころには、不安だった気持ちはどこかへ消えていた。
あのときの経験が、今も私の中に息づいている。
旅は、新しい景色で目を楽しませてくれる。
そして、ほぼ確実に、ハプニングが起きる。
電車の遅延や道に迷うこともあれば、言葉の壁や文化の違いに戸惑うこともある。
だが、その“想定外”をどう乗り越えるかが、後の記憶に残る。
良いことも、悪いことも、旅をかけがえのない思い出に変えてくれる。
そして何より、旅は「人との出会い」に満ちている。
ある人との出会いが、その後の人生を変えてしまうことさえある。
それが旅の醍醐味であり、怖さでもあり、魅力でもある。
たぶん私は、あの幼い日の一人旅がきっかけで、旅人におせっかいを焼くのが好きになったのだと思う。
ヒッチハイク中の青年を目的地まで送ったことがある。
東京から来た老夫婦を案内して、半日一緒に過ごしたこともある。
台湾から来た母娘を、地元の市場に連れて行ったこともあった。
どれも、こちらが勝手にやったこと。
でも少しだけ、感謝されたような気がしている。
いや、それ以上に、私のほうが感謝しているのかもしれない。
そんな旅での出会いが楽しいと感じるのは、新しい経営者との出会いを楽しむ感覚と、どこか似ている。
縁もゆかりもない相手と、新しい関係を築いていく。
会った瞬間に意気投合することもあれば、少しずつ距離を縮めていくこともある。
時間を重ねることで信頼が芽生え、やがて深いご縁になる。
そのプロセスこそが、何よりも尊い。
今日もまた、どこかで新しい出会いが待っている。
そう思うだけで、心が躍る。
今日は、どんな経営者に出会えるだろうか。
どんな物語が、そこから始まるだろうか。新しい扉をたたくたびに、私は少しだけ、あの遠い日の自分を思い出す。




コメント