「一度会ったら、友達だ」あの日の言葉が、今も私を動かしている
- ncu807
- 7月29日
- 読了時間: 2分
人との出会いは、時に予測不能な形で、人生の羅針盤となる言葉を授けてくれることがある。私にとって、それは二十年以上も前に出会った、ある人物からかけられた一言だった。
「私は一度会ったら、もう友達だと思っています。」
初対面の私に、屈託のない笑顔でそう言ったのは、とあるワイン製造会社の役員だった。その言葉の力強さと温かさは、今でも鮮明に記憶に残っている。
しかし、不思議なことに、彼と直接会ったのは、たったの二度だけ。一度目は、その言葉を授けてくれた日。そして二度目に会ったのは、まったく予期せぬ場所だった。地方の医療施設。彼がそこにいたのは、筋ジストロフィーを患う息子さんのお見舞いのためだった。
ガラス越しに見えた無菌室。たくさんのチューブにつながれ、懸命に生きる息子さんを、彼は静かに見つめていた。初対面の時に見せた快活な姿とは違う、父親としての深く穏やかな眼差し。その光景は、彼の言葉にさらなる深みを与えたように思う。
彼と私の直接的な接点はもう一つある。ハウステンボスの創設者・神近義邦さんを紹介してくれたのが、彼だった。その縁が直接何かに繋がったわけではない。でも、「一度会ったら友達だ」という彼の哲学が、新しい世界への扉を開いてくれたことは間違いない。
結局、彼との関係はそれ以上深まることはなかった。彼の言葉の真意を問い質したこともない。だからこれは、私の勝手な解釈かもしれない。
でも私は、「一度会ったら友達だ」という言葉を、「一期一会」をもっと能動的に、そして温かく表現した魔法の言葉だと思っている。一度きりの出会いを大切にする、という受け身ではなく、出会った瞬間から「仲間」として迎え入れる、そんな積極的な姿勢だ。
その出会いが一度きりで終わるか、長く続くかは分からない。でも、それは重要ではない。すべての出会いを「縁」として捉え、その瞬間を慈しむことこそが大切なのだ。
あの日、彼がくれた言葉は、二十年以上経った今も、私の背中を押してくれている。新しい出会いに臆病になりそうな時、人との関係に悩んだ時、ふとこの言葉が心に蘇る。
「一度会ったら、友達だ」
今日も私はこの言葉を胸に、新しい出会いの扉を開いて行きたい。




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