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三十分の邂逅、その一期一会に賭ける

  • 執筆者の写真: ncu807
    ncu807
  • 8月5日
  • 読了時間: 3分

デジタルの窓が、今日も私の書斎と世界をつなぐ。

先週だけで、オンラインを通じて56名の経営者とお会いした。

そのうち17名は、「初めまして」の方々だった。


オンラインという、どこか無機質にも感じられる空間で、限られた三十分という時間を通じて、私たちは互いの輪郭を少しずつ確かめ合っていく。


初対面の面談は、私にとってひとつの小さな儀式のようなものだ。

まず相手の事業に耳を傾け、その歩みの背景を丁寧に紐解いていく。

どのような領域で、どんな想いを込めて、何を実現しようとしているのか。

単なる事業紹介ではなく、その方の根にあるもの――熱、祈り、矜持のようなものに触れたいと思っている。


数字や戦略は、いわば企業の設計図であり骨格にすぎない。

私が本当に知りたいのは、その骨格を動かす血流であり、心臓の鼓動だ。

創業の動機となった小さなきっかけや、ある日の顧客の一言に心を揺さぶられた瞬間。

眠れぬ夜を越えた末に生まれた、ひとつの決断。

そうした物語の中に、その人ならではの「らしさ」がにじみ出ると感じている。


そして、相手を知ろうとする以上、自分自身も開いていく必要がある。

私もまた、自分の取り組みやこれまでの歩みを、できるかぎり率直にお話しする。

ただ、事業の成果や実績を並べるのではなく、何を信じているのか、何を恐れ、何に励まされてきたのか。

うまくいかなかったことや、そこから学んだことを正直に語るようにしている。

完璧な姿を見せるよりも、葛藤のなかで見つけた小さな希望のほうが、人の心に届く気がするからだ。


三十分という時間は、決して長くはない。

けれども、その短さゆえに、全神経を研ぎ澄ませて対話に向き合うことになる。

言葉の意味以上に、その声の温度や、視線の揺れ、言い淀みの裏にある迷いや期待。

そうした微細な信号を受け取ろうと、五感を総動員して臨む。

すると、不思議な瞬間が訪れる。

十分、十五分と経った頃、霧が晴れるように、相手の人となりや価値観が、ふっと浮かび上がってくることがある。


そこで評価や判断を急ぐ必要はない。

良し悪しではなく、ただそこにあるものを、まっすぐに見つめる。

純粋な興味と敬意をもって、ひとりの人間の輪郭に触れること。

それが、限られた時間の中で信頼を育む、唯一の方法だと思っている。


「一期一会」という言葉が、年々、静かに重みを増して心に響くようになった。

毎月50人から60人の経営者と出会うなかで、一つとして同じ対話はなく、一つとして無意味な出会いはないと知った。

たとえ画面越しでも、本気で向き合えば、そこには確かな温度が生まれる。

たった三十分の対話が、自分のなかの凝り固まった価値観をほぐしてくれることもある。


明日もまた、新たな誰かとの三十分が始まる。

その邂逅が、ほんの少しでも、自分の世界の色を変えてくれることを願って。

今日もまた、私は静かに画面の前に座る。


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