お節介のススメ
- ncu807
- 8月11日
- 読了時間: 3分
十年ほど前のことである。
昼食をとろうと札幌駅へ向かって歩いていた。
駅の手前で、年配の女性に呼び止められた。
「三井住友銀行はどこにありますか?」
説明だけするつもりだったが、次の予定まで少し余裕があった。
そこで、銀行まで一緒に行くことにした。
彼女は片足が不自由なようで、杖を突いていた。
その歩みに合わせると、駅を抜けるだけでもそれなりの時間がかかる。
道すがら、世間話が始まった。
これから大昔の女学校時代の友人たちと集まるのだという。
久しぶりの昭和初期ギャルズトークを、心待ちにしている様子だった。
その前に少しお金をおろしておきたい——それが銀行に行く理由らしい。
途中、三井住友「信託」銀行の前を通りかかった。
念のため尋ねた。
「おかあさん、三井住友銀行でいいんですよね?」
そうだと言うので、そのまま歩を進めた。
倍の時間をかけ、ようやく到着。
昼食を急がねば午後のアポイントに遅れそうだと別れを告げようとしたとき——。
なぜか、窓口の若い銀行員と彼女がもめていた。
原因はすぐにわかった。
通帳に記されていたのは、やはり三井住友「信託」銀行の文字だった。
ここまで来るのも、彼女の足では一苦労だったろう。
昼食はもう諦めるしかない。
そして彼女にも、新札幌での待ち合わせが迫っていた。
乗りかかった舟である。
銀行員に頼んだ。
「後で返しに来ますから、その車いすを貸してもらえませんか」
事情を聞いた上司が快く了承してくれた。
季節は冬の終わり。こうして、車いすに彼女を乗せ、みぞれ混じりの寒空の下を再び戻る。
目的地の三井住友「信託」銀行に着くと、念のためお金をおろすところまで付き添い、タクシーに乗るのを見届けた。
窓越しに、彼女は何度も頭を下げていた。
さて、次は自分の仕事だ。
空の車いすを押してオフィス街を走る背広姿の男——かなり目立ったらしい。
銀行に返却し、事務所に飛び込み、そのまま商談へ向かった。
私は昔からおせっかいが好きである。
もちろん、できることしかやらない。
しかし、できることならやってみたい。
そして、それが誰かを喜ばせるなら、なおうれしい。
2000年のアメリカ映画『ペイ・フォワード』を思い出す。
「世界を変えるにはどうすればいい?」
宿題に取り組む少年は、受けた親切を別の三人に渡していくというアイデアを実行に移す。
その連鎖が、小さな奇跡を生んでいく。
あれから二十年以上たつが、この世は変わったのだろうか。
おそらく、親切と敵意のせめぎあいは、これからも続く。
それでも、少しずつ良い方へ向かっていると信じたい。
敵意よりも寛容さを。
そして、寛容さに加えて、改善できることから一歩踏み出す勇気を持ち続けたい。
たとえ、少しおせっかいと言われても。




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